加藤健一事務所「セイムタイム・ネクストイヤー」プログラムより
2001年6月 インタビューに答えて
私が「二人芝居や三人芝居を、ぜひやってみたい」と思うようになったのは、それまで所属していた薔薇座をやめて、舞台から3年半ほど遠ざかっていた頃ですね。その私にとって“暗黒の時代”に、「自分が一番やりたい芝居は何なのか」を考えつつ、映画を見まくったんですが、その中で痛感したのが、「私は、役をじっくり掘り下げ、役だけじゃなく自分も見つめながら作っていくような芝居作りがしたいんだ」ということ。少人数のお芝居に興味を持ち始めたのも、それからなんですよ。実現するには、ちょっと時間がかかりましたけど。
「リタの教育」という男女二人芝居に出会ったのは、97年です。これにはハマりましたね、その分大変でしたけど。最初はエベレストのような山の麓にいる気分でしたよ。2幕15場、2時間40分の二人芝居なので、台本はすごく分厚いし、私がやるリタという役は、オシャベリな美容師でずーっとしゃべってるし(笑い)。
でも、自分の殻を破って、心の奥にあるナイーブな部分もお客さんに見てもらいたい。それがクリアできなければ、役者としてその上には行けないだろうな・・・と思っていた時期だったので、たとえ頂上が見えなくても、登るしかないと思って。共演の有川博さんの胸を借りて、本当に直球勝負でぶつかっていった感じです。
二人芝居って、休む暇がないんですよ。二人しか出ないから、自分がしゃべってるか、聞いてるかなんですけど、聞くことも芝居ですからね。しかも、ダメ出しが1日100個ぐらい私に来るから、稽古が終わったら終わったで、その日のダメだしを全部チェックして。それがやっと済むと、「よし。今日のは忘れた。また明日だ!」と気持ちを切り替える。毎日その繰り返しでした。
その甲斐あってか、再演の時は、リタがちょっと大きくなって出てきたかな、と言う感じがありました。ただ、無我夢中というわけにはいかなくなりました。やっぱり自分も成長しているのかな、と。それにつれて、見えてくる世界も違ってくるので、毎回、毎回、やっているときは精一杯で、「悔いを残さずにやろう」という思いだけでやっているんですけれど、またちょっと間があくと、やり残したことがいっぱい見えてくるんです。
で、また再演になったんですが、このときは、役と二人三脚で走っている気分でした。3度目にして、やっとリタと足並みそろえて走れたなと実感できて。着替えもずいぶん早くなったんですよ。リタは1回の公演で10数着も着替えるので、いつも楽屋裏は、ちょっとお見せできないくらい恐ろしい状況なんですが(笑い)、お手伝いの方に1人ついてもらって、40秒以内でストッキングまで替えられるようになりましたからね。あれはもう、呼吸と手順のなせるワザですよ(笑い)。
呼吸といえば、有川さんとのやりとりも、テニスのラリーを続けているように感じられるようになりました。それも、勝ち負けではなくて、球を上手く運びながら、いかにプレイを大きく見せるかというラリー。もちろん、すごく緊張するし、開演前はいつも怖くて仕方ないんですが、その醍醐味と怖さがたまらないんです(笑い)。
やっていると、相手のその日の調子もすぐわかるんですよ。逆に、相手の雰囲気から「あ、今日の私、ぬるいんだな」っていうのもわかる。そういう時の有川さんは「ほら、ここに打てよ。俺はちゃんと打ち返すから」っていう目をしてるから(笑い)、テンションあげていかなくちゃって。これも二人芝居だからできることですよね。
私が二人芝居で特に魅力的だなあと思うのは、「1+1=2」にならないところ。たとえば、私がやる役のカラーがピンクで、相手の役のカラーがブルーだとしたら、普通なら足すと紫になるじゃないですか。でも、舞台はそうならない。役と役がぶつかったところに不思議な化学変化が起きて、パッと赤になったり、どんな色合いが生まれるかわからないんですよね。
特に「リタの教育」の場合は、2時間40分という上演時間の中で、1年半くらいの経過を見せていくお芝居なので、リタのカラーもどんどん変わっていくんですね。そうすると、反応自体も変わるから、生まれてくる色もどんどん変わる。二人芝居って本当に、共演者とのコンビネーションから創り出されるものだなあと感じます。
私にとって「リタの教育」との出会いは本当に大きいですね。作品や役との出会いはもちろん、共演者、演出家、スタッフといった部分も含めて。しかも、前向きなリタという役は私にパワーをくれるんです。これから自分が女優としてやっていく上でも、ライフワークというか、一本の芯として、ずっと持っていきたいですね。
ただ、リタは28歳の役なので、いつまで持つかなあ(苦笑)。劇場も小さいので、お客さんに「ちょっと無理が・・・」なんて思われないうちにはやめなきゃなと、思ってはいるんですよ。その間に、自分の年齢に合った、また別の二人芝居にも出会うでしょうし。 そう考えると、16年もやってらっしゃる加藤さんと高畑さんの「セイムタイム・ネクストイヤー」は本当にすごいですよね。まさに役者と作品とスタッフの幸せな巡り合わせの結果というか。わたしも秋には、有川さんとのコンビ第2弾として、「スカイライト」というお芝居に新たに挑戦するんですが、これも「幸せな巡り合わせ」にできるように、がんばりたいですね。
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